第185回 さよなら池田重子さん
 

呉服市場凋落でも満員の着物展示会
Re着物の可能性を確信した衝撃体験

昨年の10月13日に、着物コーディネーターで、アンティーク着物のコレクターとして著名であった池田重子さんが亡くなられた。89歳であった。
 
池田先生とは、以前たんす屋の加盟店をしていた石田節子さんが、池田先生の経営されている目黒の「時代布と時代衣裳 池田」で働いていたご縁で紹介頂き、その後お近しくさせて頂いていた。8年前には、毎年年末にお客様に発送する小冊子「たんす屋通信」の巻頭で対談をさせて頂いた事を懐かしく思い出す。

呉服問屋に不安抱える日々

池田先生との最初の出会いは、私が社長に就任した平成5年、今から23年前に遡る。

今はないが、新宿の伊勢丹美術館で池田先生のアンティークの着物や帯のコーディネー卜展覧会「第一回日本のおしゃれ展」が開催された。このイベントは、私の人生に大きなインパクトを与えてくれた。 

当時、呉服問屋の三代目社長に就任した私は、永年に亘り呉服市場が潤落を続け、問屋業は不要と言われる中、将来呉服問屋を継続し、経営して行けるか大きな疑問があった。そんな中、私の記憶ではこの「日本のおしゃれ展」の入場者数は、日本画家の第一人者である平山郁夫展の入場者記録を抜き、伊勢丹美術館の新記録を樹立した。驚愕であった。 

着物市場はずっと右肩下がりで、呉服屋の展示会にお手伝いに行っても来店客数は減る一方。いつもガランとした展示会場で、日本女性はもはや着物が嫌いになったのか、と思い悩む日々。そんな中、ディープインパクトを与えてくれたのが池田先生の「日本のおしゃれ展」であった。

着物好きの女性は無尽蔵にいる!

展示会期中、お客様はずっと満員状態。更に来場者の95%が女性で、年代幅は10代から80歳以上までと全ての世代を網羅していた。更に入場券を支払ってまで、こんなに多くのお客様が来場される事実に衝撃を受けた。

そこで私はつくづく"日本女性は着物が好きだったんだ!"と心の底から実感したのである。上気した顔で熱心に着物や帯、帯留、刺繍の半襟を飽きずに眺めて魅了される多くのお客様を目の当たりにし、着物屋でいこうと心に誓った。 

その帰り道、最寄のお得意先の呉服店に立ち寄り、社長に興奮冷めやらず「日本のおしゃれ展」を見てきた感想を伝えた。すると、その社長の返事は意外なものであった。私が「いやいや社長、日本のおしゃれ展、凄かったですよ!」とお伝えすると、「困ったもんだよ、おしゃれ展を見た帰りのお客さんがうちに寄って、みんな"あんな着物や帯は無いの?"って聞くんだけど、あるわけ無いじゃないか。あんな今は無い古いアンティークを見せられても売れる訳じゃないし、困ったもんだよ」との返事であった。 

当然ながら呉服問屋の東京山喜が、アンティークの着物を卸してさし上げる事も出来ないので、そのままスゴスゴと帰った。ただ、自分の中にしっかりと着物が好きな女性は無尽蔵におられる!という強烈な印象がインプットされた。

そして着物業界の凋落に歯止めがかからない原因は、消費者の着物離れではないと気づいた。着物業界の流通は、以前のままメーカーが創った着物や帯を問屋が仕入れ、小売店が問屋から委託で商品を借りている様な事をしてきた。そのつけが廻り、消費者の欲しい商品をお客様に提案する事が出来ていなかった所に最大の原因があると感じた。つまりここを改善し、着物業界でもアパレル業界の様なSPA(製造小売り)が育っていかない限り、再活性はありえないと痛感した。この事を気づかせてくれたのが、まさに池田重子さんであった。 

そして明治、大正、昭和と時代をリードしてきた着物や帯の素晴らしさに気づかせてくださったのも、池田重子さんに他ならない。

この池田重子さんの「日本のおしゃれ展」に出会ってなかったなら、そもそも私が、80年続いた呉服問屋の歴史に幕を下し、リサイクル着物たんす屋を始める事は無かったかも知れない。

その池田重子さんの追悼と言う事で、昨年の12月30日から、本年1月18日まで、銀座松屋の催事会場で「追悼 池田コレクション 日本のおしゃれ展」が開催されている。招待券を頂いて7日に観に行って来た。 
 
久しぶりに目にする池田重子コレクション は、今でも往時の輝きを保ち続けて多くの女性を魅了していた。一点一点の工芸度の高さと、意匠力の奔放さは、今の着物に求めても復刻する事は不可能であろう。

あの時、池田重子さんの「日本のおしゃれ展」に出会い、大きな影響を受け、着物ビジネスの無限の可能性を確信した。その結果、呉服問屋をたたみ、リユースの着物をメインにしたリサイクル着物のショップ「たんす屋」を平成11年に立上げた。その事を思い出すと感概ひとしおである。
 
池田先生との出会いに心から感謝し、ご冥福をお祈り申し上げます。       合掌

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