第75回 中国きもの事情
 

生産地など情報開示で業界の信頼回復を

十一月十日から十三日迄、中国へ出張してきた。一年ぶりの中国であった。
 
東京山喜は八十九年三月から、中国での仕事をしている。はや十八年の歴史である。八十九年の六月四日には、天安門事件があり当時の中国は未だ未だ、未開放の国であった。
当時、呉服問屋であった弊社は、より良いきものや、帯を、より安くつくりたいとの思いで、中国へ進出した。生糸の価格差と、人件費の格差が当時は大変大きかった。しかし、和装関係の技術移転は、始まったばかりで、品質には、問題が多かった。あれから十八年、国内との価格差は縮まったが、品質は向上し、生産出来るアイテムは、飛躍的に増加した。特にたんす屋の場合は、きものと帯びを仕立て上げて販売しているので、中国で仕立て上げて輸入するところに最大の強味がある。
中国で最初にスタートしたのは、やはり素材である。生糸の生産が、世界市場の七割近くが中国に集中し、日本の和装の白生地もほとんどが、中国産の生糸となった。
次には、白生地を中国で生産する様になってきた。一方帯地に於ては、中国特有の技術を駆使したものからスタートした。具体的には、『明綴織の帯』。綴は、日本では最高級の織物だが、この綴織自身、ルーツが中国である。刻絲織というのがそれで、歴代中国皇帝の装束をつくる為の特殊技術であった。隋・唐の時代に京都・仁和寺の僧侶が、中国へ経文を習いに行った時に、同行の寺待が、現地で習得し、日本に持ち帰った為、今でも綴の産地は、仁和寺のある御室となっている。次に中国出身の、蘇州刺繍や、汕頭刺繍を、きものや帯に加工し、大量に生産した。
弊社は、当時、日中友好協会と提携し、中国大使館の文化処の後援を得て、北海道から九州、沖縄迄の全国有名百貨店で、中国刺繍きもの展示販売会を大々的に開催し、延べ約二百ケ所で約五年ほど継続して行って来た。八十九年から、九十四年頃の事だ。当時、中国刺繍きものは、正に一世を風靡したと言っても過言ではない。その頃、弊社も蘇州で、合弁企業を設立し、染工場や、縫製の工場をつくって行った。染の職人さんや和装の先生を、中国へお連れして、どんどん技術移転をして行った。その後呉服の卸業務を完全に撤退する為に、自社工場は、すべて閉鎖したが長年のネットワークは今も健在で、種々の商材を、中国生産に依存している。
まず、和装小物においては、三分の二が中国を中心とした海外製品である。浴衣も同様で、価格訴求品においては、ほぼ百%海外製品である。帯に関しては夏物が特に多く八〇%程度が中国である。その点きものは、未だ未だ日本国内の友禅が多いが、縫製においては、百%、中国か、ベトナムである。そのきものにおいても、手描友禅も、紬も、相当良いものが出来る様になっており、現在一五%~二〇%ぐらいの割合が近い将来、六〇%~七〇%となる可能性は大きい。
この様な傾向に対して、業界内の賛否は分かれるが、私は当然、自らがこの事をリードして来た立場から、賛成派である。反対派の論点は、国内産地が、海外への技術流出で疲弊するという事だ。
私の考えは、国産だけにこだわれば、きものや帯は、非常に高額になり、そうなれば、一部の愛好家だけの嗜好品に限られ、市場の成長は望めない。しかし、海外で格安品の生産をする事で、市場の裾野が拡がり、結果として国内産地も、その価格に見合う高付加価値品を生産するメーカーは、発展的存続が可能となる。これが、私の持論である。
ただ、ここで最も大事になってくる事は、業界内のすべての段階での情報の開示である。たんす屋においては、製織地、染色地、縫製地を消費者にすぐわかる様、情報開示してある。
例えば、秩父で織ってもらっている銘仙なら、製織地日本、縫製地ベトナムとしてある。これは、仕立ては、ベトナムでする事で価格をおさえている。中国での手描友禅には、染色地中国、縫製地中国と表記している。お客様は、これだけの手描友禅の振袖が、これだけ安いのは、中国生産のおかげだとすぐわかる。それがいやなら京友禅の振袖も当然用意してある。
問題なのは生産地や、縫製地をファジーにして、国産品とたがわぬ価格で販売する事だ。これでは、消費者をあざむく事になる。あらゆる意味で、きもの業界の信頼回復が急務な今、この点での正直な情報開示も、最も重要なポイントの一つだと考えられるし、その事が、健全な市場形成につながるのではないだろうか。

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