リユース着物 たんす屋

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2025年08月25日

着物で旅行!  準備・コーデ・マナー完全版:前編

着物で旅行タイトル

着物での旅行は、非日常を味わう特別な体験。でも「歩きにくそう」「汚れが心配」「荷物が多くなりそう」と、不安に感じることもありますよね。この完全版ガイドでは、旅に最適な着物の素材選びから、少ない枚数で着回すコーディネート術、シワや型崩れを防ぐ持ち運び方、さらには旅先での応急処置まで、着物旅の準備と知っておきたいマナーを徹底解説します。

このテーマは前編、中編、後編と3部に分けてお届けします。リサイクル着物、リユース着物を賢く活用し、自分らしい着物旅を叶えましょう。

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目次

1. 素材選び:旅に強い“リユース”×素材の最適解
 1-1. まず押さえる「旅の着物」選び3つのポイント
 1-2. リユースだからこそ挑戦しやすい「正絹」
 1−3.少し汚れても気兼ねなく楽しめる——リユース着物のメリット
 1-4. 素材別|“旅向き度”ざっくり比較
 1-5. リユース着物選びで失敗しない「サイズの目安」
 1-6. 旅シーン別おすすめ構成(例)
 1-7. 正絹を旅で安心して着るための最小装備
 1-8. 素材選びの結論
2. 目的地別の着物体験アイデア
 2-1. 歴史街道・城下町でのまち歩き
 2-2. 神社仏閣めぐり:作法と“画になる所作”
 2-3. 庭園・美術館・洋館:静けさを纏う
 2-4. 伝統体験:手仕事の現場では“物語”を着る
 2-5. 季節イベント別の着こなし&立ち回り
 2-6. 着物×列車旅・舟・ロープウェイ
 2-7. “リユース目線”の寄り道プラン
 2-8. 雨の日の“インドア映え”ルート
 2−9. さっと使えるミニチェックリスト
3. コーデ計画:少ない枚数で映える“カプセル和装”
 3-1. 旅日数別カプセル設計(枚数と配色の基礎)
 3-2. 配色・柄の設計図(実例)
 3-3. 一点もののリユース着物/帯を“主役”にするコーデ術
 3-4. TPO早見表(旅仕様)
 3-5. 天候・温度に強いスイッチ戦略
 3-6. 小物の“レバー”で印象を変える
 3-7. 着回しサンプル(2泊3日の実例)
 3-8. 旅で失敗しない5原則
 3-9. 目安重量(パッキング計画に)
 3-10. クイック持ち出しリスト(コーデ編)
4. 持ち運びの基本:畳み方・収納・保護
 4-1. 旅の前準備(5分で差が出る)
 4-2. 本だたみ(基本の畳み方|所要3分)
 4-3. 袖畳み(小さめスーツケースやリュック向け)
 4-4. 長襦袢の畳み方(半衿つき)
 4-5. 帯・小物のコンパクト保護
 4-6. 包み・ケースの使い分け
 4-7. スーツケース実用パッキング(レイアウト例)
 4-8. 機内・雨天時の持ち運びの注意
 4-9. リユースならではの“保護”の勘所
 4-10. 草履・足袋の運び
 4-11. 到着後のルーティン(3ステップ)
 4-12. 旅先トラブルの応急処置
 4-13. ミニチェックリスト(持ち運び編)

1. 素材選び:旅に強い“リサイクル”×素材の最適解

本章では、旅を快適にする着物選びのポイントとして「リサイクル着物」「リユース着物」に注目し、最適な素材の選び方や、正絹を旅で楽しむための具体的な方法を解説します。

用語メモ
リユース着物
:中古・委託・アンティークなど、誰かが着た(または長期保管されていた)着物の総称。
正絹(しょうけん):絹100%の着物。しなやかで発色がよく、体になじむ。
ポリ:ポリエステル生地。扱いやすく雨に強い。
木綿/ウール:綿・毛の普段着生地。カジュアルで動きやすい。

古都を散策する着物姿の3人の女性

1-1.  まず押さえる「旅の着物」選び3つのポイント

  • 歩きやすさ:長時間移動で擦れにくいか、裾さばきはスムーズか。
  • 食事への安心感:食べこぼしを気にせず楽しめ、手入れがしやすいか。
  • 天候への対応力:急な雨、風、寒暖差に柔軟に対応できるか。

この3点を基準に素材と「リサイクル着物、リユース着物を選ぶかどうか」を考えると、旅の不安がぐっと減ります。

1-2.  リサイクル・リユースだからこそ挑戦しやすい「正絹」

正絹は「美しいけど高価で扱いが難しそう」と構えがち。そこでリサイクル、リユースの出番です。

挑戦しやすい理由

  • 価格のハードルが下がる:新品より手の届く価格帯が多く、“良いもの”を選びやすい。
  • 見た目の格と着心地:光沢と落ち感でインスタ映え抜群。しなやかで長時間の着姿が上品。
  • 体温調整に優秀:通気性・保温性のバランスが良く、季節の幅が広い。

雨・汚れへの現実的な対策

  • 小雨想定の装備:薄手の雨コート(セパレート)/撥水ショール/折りたたみ傘を“すぐ出せる位置”に。
  • 濡れたら:こすらずタオルで押さえる→風通しの良い場所で陰干し。ドライヤーの熱風はNG。
  • 衿・袖口の汚れ予防:半衿を化繊にする・袖口に汚れ防止のインナーを重ねる。

「いつかは正絹」を、“旅で着る”という目的でリサイクル、リユースから軽やかに始めるのがおすすめです。

1−3.少し汚れても気兼ねなく楽しめる——リサイクル着物のメリット

  • 心理的に安心:小さなシミやヤケがあっても「味」と捉えやすく、旅先で思い切り散策したり、食事を楽しんだりできます。
  • 柄選びが楽しい:一点ものの出会いが多いため、旅の風景に合った個性的な着物を見つけやすく、写真もより魅力的に。
  • 環境にもお財布にも優しい:持続可能な選択肢でありながら手頃な価格なので、旅用の2着目としても最適です。
  • 旅先での対応もしやすい:多少の汚れなら、帰宅後に簡単な手入れをしたり、専門店に相談したりすることで十分対処できます。

ちょっとした工夫:目立たない古いシミは、帯の位置を調整したり、半衿の色で視線をずらしたりすることで、ほとんど気にならなくなります。

1-4.  素材別|“旅向き度”ざっくり比較

素材見た目/格シワ雨・湿気体温調整重さ洗い旅での向き
正絹上品・写真映えつきにくい弱い(要カバー)基本は専門業者晴れの日のまち歩き・食事に最強
ポリきれいめほぼ気にならない強い自宅OK多い雨予報・移動多めの日の相棒
木綿カジュアル出やすいが戻しやすい良(春秋◎)やや重自宅OK城下町散策・ローカル列車の日
ウールカジュアルつきにくい普(濡れ×)良(冬◎)自宅OK寒い季節の屋外イベント

迷ったら:1着目ポリ/2着目リユース正絹が旅用途では鉄板。天候と目的で使い分けましょう。

1-5.  リサイクル着物選びで失敗しない「サイズの目安」

リサイクル着物を選ぶ際、「ぴったりサイズ」を見つけるのはなかなか難しいものです。でも、いくつかのポイントを押さえれば、旅で着るのに十分な着物を見つけられます。

基本のサイズ目安(女性の普段着)

  • 身丈(みたけ):身長±5cm程度なら問題ありません。おはしょり(腰でたくし上げる部分)で調整できます。
  • 裄(ゆき):自分の裄(背中心から手首まで)±1cm程度が理想です。短いと手首が出過ぎたり、長いと手に被ったりしてしまいます。
  • 幅(前幅・後幅):ヒップのサイズに合ったゆとりがあるかを確認します。一般的な目安は前幅24~26cm、後幅28~30cmあたりが多いですが、数字よりも実際に羽織ってみた「試着感」を大切にしましょう。

リユース品ならではのチェックポイント

  • 薄いヤケ(色焼け)や点シミ:帯を締めたときに隠れる位置にあるかを確認してください。帯から上5~10cmくらいは目立ちにくいことが多いです。
  • 胴裏(どううら)の黄変:着物を裏返したときに胴裏が黄色く変色している場合があります。これは着用には問題ありませんが、白っぽい襦袢や長襦袢と合わせると透けて見える可能性があるので注意しましょう。
  • 匂い・保管臭:古着特有の匂いや保管臭が気になる場合は、風通しの良い場所で陰干ししたり、乾いたタオルで優しく拭いたりすることで改善することが多いです。

これらのポイントを参考に、あなたにぴったりのリサイクル着物、リユース着物を見つけて、旅をさらに楽しみましょう。

1-6.  旅シーン別おすすめ構成(例)

  • 1~2泊(雨予報):ポリエステル着物と半幅帯が基本。もし可能なら、リサイクルの正絹帯をサブに持って行くと、質感で印象アップが狙えます。
  • 2~3泊(晴れ中心):リユースの正絹着物と名古屋帯を主役に。移動日や急な天候変化に備えて、ポリエステル着物をもう1セット用意しておくと安心です。
  • 体験重視(工房・酒蔵・食べ歩き):木綿かポリエステルの着物に、汚れに強い化繊の半衿がおすすめ。エプロンや懐紙も忘れずに持参しましょう。
  • 寒冷地:ウールか正絹の着物に、羽織やショールで防寒を。足袋の中に履くインナーで、足元もしっかり保温しましょう。

1-7.  正絹を旅で安心して着るための最小装備

  • 薄手の雨コート or ポケッタブルレインウェア:急な雨に備えて、すぐに取り出せる場所に。
  • 吸水タオル:もし濡れても、こすらず優しく水分を吸い取らせるために。
  • 替えの化繊半衿+裁縫用両面テープ:汚れやすい半衿をサッと交換できるよう、予備と応急固定用のテープを。
  • 懐紙・袖クリップ:食事中の食べこぼしや袖の汚れを防ぐ、旅の必須アイテム。
  • 通気性のある収納袋:ビニール製の密閉袋は湿気やカビの原因になるので避け、通気性の良いものを選びましょう。

1-8.  素材選びの結論

  • 写真映えや着姿の美しさを重視するなら → リサイクル正絹を旅の「主役」に。
  • 雨や移動の多さを考慮する日なら → ポリエステルで気軽に。
  • 街歩きの快適さ(温度感)が大切な旅なら → 木綿/ウールで心地よく。

ベストな選択は、「ポリエステル1着・リサイクル正絹1着」の2軸体制です。これがあれば、9割の旅のシーンをカバーできます。

2. 目的地別の着物体験アイデア

本章では、旅の目的地に合わせた着物での過ごし方を提案します。歴史ある街並みの散策から神社仏閣での作法、さらには伝統体験まで、それぞれのシーンで着物が映える立ち振る舞いや写真のコツを具体的にご紹介します。

用語メモ
参道の中央
:神様の通り道とされるため、歩くのは端が基本。
手水(ちょうず):参拝前に手と口を清める所作。袖が濡れやすいので要注意。
玉砂利:神社境内の砂利道。草履の歯(底)が沈みやすい。

温泉ののれん
温泉巡りも楽しい旅の目的

2-1.  歴史街道・城下町でのまち歩き

石畳や格子戸、蔵造りの町並みは、着物のシルエットと相性抜群。リサイクルの一点ものなら景色との“偶然の調和”が生まれ、旅写真が一段とドラマチックに。

モデルコース(半日)

  1. 早朝の旧街道で散策(人が少ない時間に広角で全身カット)
  2. 古民家カフェで休憩(帯をつぶさない浅掛け座り)
  3. 酒蔵/染め・織り工房見学(袖クリップ+エプロン持参)
  4. 夕方の川辺・石橋で逆光撮影(帯の面に柔らかな光)

足元対策

  • 玉砂利や石畳には低めの草履+滑り止め。雨予報なら底ゴムの草履や下駄へ。
  • 裾さばきは膝から前に出す意識で。段差・橋では手で軽く持ち上げると安心です。
飛騨高山グルメ散歩
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2-2.  神社仏閣めぐり:作法と“画になる所作”

参拝の基本

  • 鳥居の前で一礼し、参道は端を歩き、手水で清めてから拝殿へ進みましょう。
  • 服装はカジュアルな着物で大丈夫ですが、露出は控えめに、香水なども控えめにするのがマナーです。

写真のコツ

  • 鳥居のフレームを活かす:正面から立つのではなく、斜め45度で帯の立体感を見せると、より印象的な写真になります。
  • 手水舎(ちょうずや):袖をクリップで留め、水に濡れないように注意しながら、柄の半衿や帯締めをさりげなく写しましょう。
  • 灯籠(とうろう)・回廊:連なる背景は、あなた(主役)と建物の「リズム」が合わさることで奥行きが生まれ、美しい写真になります。
  • 三脚やレフ板は禁止されている場所が多いので、現地のルールに従い、混雑時は長居しないようにしましょう。

雨の日こそ映える

  • 雨に濡れたつややかな石畳や苔は、光を反射して幻想的な美しさがあります。ポリエステル着物や撥水ショールを活用して、快適に散策を楽しみましょう。
神社参拝

2-3.  庭園・美術館・洋館:静けさを纏う

凛とした空間では、柄を引き算したコーデが映えます。無地場の多いリユース正絹や、渋いアンティーク帯で“静の美”を演出しましょう。

楽しみ方

  • 庭園:飛び石は小股で真上に乗るように歩き、帯をつぶさないよう浅く腰掛けると安心です。
  • 美術館:冷房対策に羽織やストールを用意し、荷物はクロークに預けて身軽に鑑賞を。
  • 洋館:ステンドグラスや階段の曲線と、帯の曲線を合わせると、写真がより絵になります。

2-4.  伝統体験:手仕事の現場では“物語”を着る

茶道、香道や和菓子作り、友禅、藍染、絞り、箔押し、和紙、組紐などの工房を訪ねる。

リユースの着物や帯は「誰かの時間を受け継ぐ」存在。手仕事の現場と好相性です。

安全&汚れ対策

  • 火や染料の近く:袖クリップエプロンでしっかりガード。帯は広がる結び方を避け、半幅帯にするのがおすすめです。
  • 座礼(正座)が多い場合:帯枕が低い結び方や、へこ帯風の軽い結び方にすると、腰への負担が少なく楽に過ごせます。
  • 香道体験:強い香水はNG。無香料のヘアスプレーなど、香りのないものを選びましょう。

2-5.  季節イベント別の着こなし&立ち回り

  • 春(桜):早朝に川沿いや堤の斜面上から撮ると、帯がきれいに映えます。花粉対策にタオルと目薬を忘れずに。
  • 新緑~初夏:木漏れ日の「点光源」は、絞りや紬の生地感を際立たせます。薄羽織で日差しケアも忘れずに。
  • 夏(祭り・花火):浴衣と半幅帯で通気性重視のコーディネートに。帯締め代わりの三分紐や帯留で、おしゃれ度をアップさせましょう。人混みでは巾着を前に持ち、屋台では袖をクリップで留めると安心です。
  • 秋(紅葉):こっくり色のアンティーク帯を主役に。落ち葉の「補色」(深緑や藍)を差すと、全体が引き締まります。
  • 冬(雪・イルミネーション):ウールや正絹の着物に道行コートで防寒対策を。足袋の中に履くインナーや、腰(仙骨の上)にカイロを貼るのもおすすめです。雪道では草履に滑り止めカバーを装着しましょう。

2-6.  着物×列車旅・舟・ロープウェイ

  • 列車:背もたれに帯が当たらないよう、浅めに座り、腰を少し前に出すのがポイント。荷物は頭上の棚ではなく、足元や窓側に置くと安心です。
  • 観光列車:車窓に映り込む光を利用して、横顔と帯を一緒に写すと、雰囲気のある写真が撮れます。
  • :揺れやすいので、裾が濡れたり汚れたりしないよう、手で軽く持ち上げましょう。座席に座る際は、帯幅分のスペースを確保すると良いでしょう。
  • ロープウェイ:風が強いことが多いので、衿元が乱れないようにしっかり整え、ショールを常に携帯しておくと安心です。

2-7.  “リサイクル目線”の寄り道プラン

  • 古着屋・骨董市めぐり:帯留・簪・半衿など、軽くて割れにくい小物を見つけたら、クッション封筒に入れて持ち帰りましょう。
  • 地場の織元・工房直売:反物の端切れを帯揚げ代わりにアレンジして、オリジナルの着こなしを楽しめます。
  • 現地レンタルを一部ミックス:ヘアセットだけ現地でプロにお願いし、主役となる帯は自分のリユース品を持っていくなど、賢く組み合わせるのもおすすめです。
  • 購入した品は、旅の荷物を増やさないよう、宅配便で自宅へ直接送ってしまいましょう。

2-8.  雨の日の“インドア映え”ルート

  • 町家カフェ/資料館:木の温もりを感じる空間では、正絹の着物が持つ「とろみ」のある光沢が美しく映えます。
  • アーケード商店街:提灯やネオンサインの光を背景にすれば、レトロな帯が主役のドラマチックな写真が撮れます。
  • 温室・ガラス館:ガラス越しの水滴が作り出す「ボケ」を活かして、幻想的な雰囲気の写真を楽しみましょう。三脚は使わず、短時間で撮影するのがポイントです。

2−9.さっと使えるミニチェックリスト

  • 参拝:袖クリップ/懐紙/小銭(賽銭用)
  • 工房:エプロン/ウェットティッシュ/絆創膏
  • 写真:スマホ用広角+セルフタイマーを使い、人の流れが切れる10秒だけに集中しましょう。
  • :撥水ショール/折りたたみ傘(ダーク色は色移り注意

3. コーデ計画:少ない枚数で映える“カプセル和装”


旅行中の着物コーディネートは、少ない枚数で最大限のおしゃれを楽しむ「カプセル和装」の考え方が重要です。

ここでは、旅の泊数や目的に合わせた着物・帯・小物の選び方、配色や柄のコントラストを意識したコーディネート術を具体例とともに解説します。リサイクル着物や帯を主役にした着こなしのヒントも満載で、旅の思い出を彩る着物スタイルを提案します。

用語メモ
カプセル和装:少数の着物・帯・小物を組み替えて複数コーデを作る考え方。
半幅帯:幅の狭い帯。軽く、カジュアル。文庫結び・貝の口などが結べる。
名古屋帯:普段~きれいめ用途の帯。お太鼓結び用。
帯揚げ/帯締め:帯まわりの布・紐。色や質感で印象を大きく変える。
帯留:帯締めに通す小物。主役の引き立て役。
小紋/紬(つむぎ)/銘仙(めいせん):いずれも普段着ゾーン。柄や織の表情が豊かで旅向き。

人力車に乗る着物姿の2人の女性

3-1.  旅日数別カプセル設計(枚数と配色の基礎)

1泊2日(身軽プラン)

  • 着物:1枚(ポリエステルまたはリサイクル正絹の無地~細かい小紋)
  • 帯:2本(主役になる一点もののリユース帯/脇役となる無地~細縞の半幅帯)
  • 半衿:2枚(白系+カラー)
  • 帯揚げ・帯締め:各2点(ベーシック+差し色)
  • ルール:3色ルール(ベースカラー60%・サブカラー30%・差し色10%)を意識して全体の色味をまとめる。

2泊3日(写真映えプラン)

  • 着物:2枚(無地に近いもの+柄系〈銘仙や小紋など一点もの〉)
  • 帯:2~3本(主役の名古屋帯+半幅帯+(もしあれば)リバーシブル帯)
  • 小物:帯揚げ3枚/帯締め3本/帯留1~2個
  • 追加ルール:柄の大小コントラスト(大柄の着物には細い小物、細かい柄の着物には大胆な帯など)を意識して、着こなしにメリハリをつける。

3泊4日(変化球プラン)

  • 着物:2枚(うち1枚は光沢のある正絹リサイクル着物)+薄羽織1枚
  • 帯:3本(主役の名古屋帯/万能な半幅帯/写真映えする一点もの帯)
  • 小物:半衿3枚・帯揚げ3枚・帯締め4本・帯留2個
  • 追加ルール:ツヤ×マットの質感コントラストで、日ごとに異なる印象を演出する。

3-2. 配色・柄の設計図(実例)

  • 春(桜/新緑):薄いグレー(ベース)×生成り(サブ)×紅梅色(差し色)
    → 細かい小紋にアンティーク帯留を合わせて“レトロ甘辛”ミックスに。
  • 夏(祭り・花火):藍色(ベース)×白(サブ)×金属小物(差し色)
    → 浴衣に半幅帯、三分紐(細い帯締め)を加えて軽やかに。
  • 秋(紅葉):焦げ茶色(ベース)×深緑(サブ)×錆朱(さびしゅ)(差し色)
    → 紬に更紗(さらさ)の一点もの帯を合わせ、大人クラシックな雰囲気に。
  • 冬(雪/イルミネーション):墨黒(ベース)×銀鼠(サブ)×瑠璃色(差し色)
    → 正絹の無地着物に名古屋帯、ガラスの帯留でキリッとモダンに。

コツ:差し色は帯締め・半衿・帯留のどれか1~2点に限定しましょう。入れすぎると全体がまとまらず、散漫な印象になります。

3-3.  一点もののリユース着物/帯を“主役”にするコーデ術

A. 主役の決め方

  1. 写真で映る面積が大きい方を主役にする(帯は半衿より、小紋は羽織より目立つなど)。
  2. 物語性(季節や土地のモチーフ)で選ぶ:例)紅葉の旅なら蔦更紗帯、港町なら波模様、寺社なら檜扇柄など。

B. 主役を引き立てる“静かな相棒”

  • 大柄の銘仙(めいせん)を着物として主役にするなら、無地に近い帯と光沢控えめの細い帯締めを合わせる。
  • 柄が強めのアンティーク帯を主役にするなら、江戸小紋や無地の着物に白い半衿を合わせて“余白”を作り、帯を引き立てる。
  • 鮮やかな色合いのものを主役にする場合は、グレーやベージュの中間色で受け止める(黒や白などの極端な色は避けると上品に見える)。

C. 色の“エコー”で統一感

  • 主役の帯に使われている色のうち1色を小物で拾う(帯締めや帯留の石の色など)。
  • 半衿に淡い同系色を入れると、顔周りだけで主役カラーが完結し、写真全体が引き締まる効果がある。

D. 時代ミックスで独自性

  • 大正ロマンの銘仙に現代的なミニマルな半衿(無地)を合わせる。
  • 昭和レトロな博多帯にスニーカーに見えないローヒールの草履を合わせる。
  • ヴィンテージの帯留にシンプルな名古屋帯を合わせると、“カメラ目線不要の存在感”が生まれる。

E. 結びとシルエット

  • 歩き回る日は、背もたれにもたれても楽な半幅帯の貝の口結びやカルタ結び(軽くて締めやすい)。
  • きれいめの夜ごはんは名古屋帯のお太鼓結びで格を上げる。
  • 帯の位置はみぞおち下からウエスト上部に安定させ、おはしょり(腰上の折り返し)をフラットに整える。

3-4.  TPO早見表(旅仕様)

シーン主役着物小物
朝の街歩き色柄の銘仙木綿/紬半幅(カルタ)三分紐+小帯留
神社仏閣柄控えめの正絹江戸小紋/無地名古屋(お太鼓)白半衿+細帯締め
カフェ/美術館アンティーク帯正絹無地名古屋ガラス帯留+薄羽織
屋台・体験主役は小物ポリ半幅懐紙・袖クリップ(実用重視)

3-5.   天候・温度に強いスイッチ戦略

  • 雨の日:ベースを着物からポリエステル着物に切り替える。主役が正絹帯なら撥水ショールでガードし、移動はビニール傘よりも折り畳み傘+前合わせを押さえるようにする。
  • 暑い日:絽や麻の襦袢/綿レースの半衿で涼しさを確保する。主役は色で魅せるコーディネートを意識する。
  • 寒い日:ウールまたは正絹の着物に道行コートを羽織って防寒対策を。主役帯の色をショールにも反映させて、見える面積を増やすと温かみが増す。

3-6.  小物をアクセントにして印象を変える

  • 半衿:着物の襟元からちらりと見せる半衿は、顔周りの印象を大きく左右します。白無地は清潔感と清楚さを、色物の半衿はコーディネート全体に洒落感と個性を、レース素材の半衿は軽やかさやフェミニンな雰囲気を演出できます。旅のテーマや気分に合わせて選びましょう。
  • 帯締め:帯の上で結ぶ帯締めは、着姿全体の引き締め役。丸い組紐の「丸組」は柔らかく女性らしい印象を与え、平らな組紐の「平組」はシャープでモダンな着こなしに。色や素材感で印象を大きく変えられます。
  • 帯留:帯締めの中央に通す帯留は、まるでブローチのように着姿のワンポイントになるアイテムです。主役の着物や帯に使われている色を帯留で拾うことで、コーディネート全体に統一感と“ピリッ”としたアクセントを加えることができます。ガラス、金属、天然石など素材も様々なので、旅の思い出に合ったデザインを選んでみましょう。
  • 羽織紐:羽織を羽織る際に使う羽織紐は、特に光を受けるとキラリと輝く金具系のものが写真映えに効果的です。正面からだけでなく、斜めからのアングルでも存在感を放ち、着姿を華やかに引き立てます。
  • 草履:意外と見落としがちなのが足元の草履です。特に鼻緒の色は、着物全体の差し色としても機能します。足元に明るい色や対照的な色を持ってくることで、軽快さやモダンな印象を演出し、全体のバランスを引き締める効果があります。

3-7.着回しサンプル(2泊3日の実例)


旅の荷物を最小限に抑えながら、毎日異なる着物スタイルを楽しむための2泊3日コーディネート例をご紹介します。

持ち物

  • 着物
    • A:無地系リサイクル正絹(墨黒)…どんな帯にも合わせやすい万能選手。汚れが目立ちにくいのも旅向きです。
    • B:銘仙(藍×朱の抽象柄)…一点もので写真映えする、旅の主役級着物。
    • ①:名古屋帯(更紗・主役)…異国情緒ある柄で、上品さや特別感を演出します。
    • ②:半幅帯(生成無地・リバーシブル)…軽くて締めやすく、カジュアルなシーンや移動日に最適。リバーシブルなら裏面の色柄でさらに印象を変えられます。
  • 小物
    • 半衿:白(清潔感と抜け感を)、薄紅(顔周りを明るく、柔らかな印象に)
    • 帯揚げ:銀鼠(ベーシックカラー)、抹茶(和の差し色)
    • 帯締め:三分紐藍(軽やかでモダン)、平組錆朱(シックで落ち着いた印象)
    • 帯留:ガラス透明(どんな色にも馴染む万能アイテム)
日程コーデねらい
1日目(移動&街歩き)着物A × 帯②(生成)× 半衿白 × 帯締め藍 × ガラス帯留軽快&写真の“余白”を確保。移動の疲れを感じさせない、すっきりとした着姿に。ガラス帯留でさりげない輝きをプラス。
2日目(神社~カフェ)着物A × 帯①(更紗=主役)× 半衿薄紅 × 帯揚げ銀鼠主役帯の色を半衿でエコー。着物Aはそのままに、帯と半衿を変えることで一気に華やかな印象に。顔周りに薄紅を差すことで明るさを。
3日目(工房体験)着物B(銘仙=主役) × 帯②(生成)× 帯締め錆朱主役を銘仙へスイッチ、帯は静かに。柄の強い銘仙を主役にし、生成りの半幅帯でバランスを取ります。帯締めを錆朱にすることで、銘仙の藍と朱の柄を引き立てます。

予備策:もし旅の途中で汚れが気になったり、急な雨に降られたりした場合は、着物A(墨黒で汚れが目立ちにくい)+半幅帯②(生成で軽く、扱いやすい)の組み合わせで乗り切りましょう。ノーストレスで旅を楽しめます

3-8.旅で失敗しない5原則

着物での旅行を成功させるために、この5つの原則を心に留めておきましょう。

  1. 主役は常に1点(帯か着物か小物か)。あれこれ詰め込みすぎず、最も見せたいものを一つ決めることで、洗練された着姿になります。
  2. 3色ルールを崩さない。ベース、サブ、差し色のバランスを守ることで、全体にまとまりが生まれ、上品な印象を保てます。
  3. 柄の大小を対比させる。例えば大柄の着物には控えめな帯を、無地の着物には大胆な柄の帯を合わせるなど、コントラストをつけることで着こなしに奥行きが生まれます。
  4. ツヤ×マットで質感の奥行きを作る。正絹の光沢感と紬の素朴さ、ガラスの帯留と木綿の半衿など、異なる質感のアイテムを組み合わせることで、単調にならず豊かな表情を見せられます。
  5. 古×新のミックスで“旅の今”に落とし込む。アンティーク着物にモダンな帯締めを合わせたり、レトロな帯に現代的なヘアスタイルを組み合わせたりと、新旧をミックスすることで、あなたらしい独自の着物スタイルが完成します。

3-9.  目安重量(パッキング計画に)

着物をはじめとする和装小物は、素材や仕立てによって重さが異なります。パッキングの際の参考にしてください。

  • リユース正絹の袷:約800–1000g
  • ポリ着物:約600–900g
  • 名古屋帯:約350–500g/半幅帯:約250–350g
  • 小物一式(帯揚げ・帯締め・半衿等):約200–300g

    ※これらはあくまで目安です。実際に手に取って重さを確認することをおすすめします。旅の荷物はできるだけ軽く、最小限にすることが快適な着物旅の秘訣です。

3-10.  クイック持ち出しリスト(コーデ編)

最低限これだけ持っていけば、旅先での着物コーディネートに困らない、厳選リストです。

  • 主役帯 or 主役着物(どちらか1点):旅のメインとなる、写真映えするアイテムを選びましょう。
  • 無地系半幅帯(困ったらこれ):カジュアルなシーンや移動日に活躍する万能アイテム。
  • 半衿2枚(白+色):清潔感と洒落感を使い分け。
  • 帯揚げ2枚/帯締め2本(ベーシックカラー+差し色):着物の印象をガラッと変える小物のパワーを活用。
  • 帯留1個(主役色を拾うもの):コーディネートのアクセントに。

4.   持ち運びの基本:畳み方・収納・保護

本章では、大切な着物を旅先へ美しく持ち運ぶための基本を解説します。シワや型崩れを防ぐ正しい畳み方から、スーツケースやリュックへの効率的な収納術、さらにはリユース着物ならではの保護のポイントまで、詳細なガイドで着物旅の不安を解消します。


用語メモ

本だたみ:着物の最も一般的な畳み方で、保管や持ち運びに適しています。
袖畳み:袖を優先してコンパクトに折り曲げる畳み方。小さめのバッグやリュックに入れる際に便利。
たとう紙:着物を保管するための和紙製の包み。通気性や湿度調整に優れています。

着物姿の女性

4-1.  旅の前準備(5分で差が出る)

  • 表面ホコリ取り:着物を着る前に、やわらかいブラシ(洋服ブラシでも可)を使って、着物の表面に付いたホコリを上から下へ一方向に優しく払います。これで、旅先での着姿がぐっと美しくなります。
  • 古い防虫剤のにおい:もし着物に古い防虫剤の匂いが残っている場合は、着用する30分ほど前に風通しの良い場所で陰干しをしましょう。この際、防虫剤の袋が直接着物に触れないように注意してください。変色やシミの原因になることがあります。
  • 小物チェック:帯板、帯枕、腰ひも、伊達締め、コーリンベルト、半衿、足袋など、着付けに必要な小物が全て揃っているか、破損や汚れがないか、事前に数を数えて状態を確認しましょう。一つでも忘れると、旅先で困ることになります。
  • リサイクル特有の点シミ:リサイクル着物、リユース着物には、小さなシミや焼け跡が残っている場合があります。これらは帯を締めたときに隠れる位置(帯から上5〜10cm程度は目立ちにくいことが多いです)にあるか、最終確認をしておきましょう。

4-2.  本だたみ(基本の畳み方|所要3分)

着物をシワなく持ち運ぶための、最も基本となる畳み方です。慌てずに、テーブルなどの平らな場所で、以下の手順を丁寧に行いましょう。

※テーブルの上で、面で押さえる/つままないがキホン。着物の生地を指でつまむと、そこに線のようなシワが残ってしまうことがあるので、手のひら全体を使って優しく撫でるように扱います。

  • 着物を裏向きにし、背中心(背中の真ん中の縫い目)が真ん中になるように広げます。このとき、左右の身頃が均等になるように意識しましょう。
  • まず右身頃を背中心に合わせて内側に折り込みます。次に左身頃も同様に折り返し、ぴったりと身頃を重ねるようにします。これで着物が細長い状態になります。
  • 着物の前身頃にあるおくみ線(衽線:おくとみせん)という縦の切り替え線に沿って、全体の形を丁寧に整えます。この線がずれると、畳んだときにシワになりやすいので注意が必要です。
  • 畳んだ身頃の上に、左右の袖をそれぞれ折り返します。この際、袖口が外に出ないように、袖口が身頃の端からはみ出さないように内側へ折り込むのがポイントです。
  • 着物の裾(一番下の部分)から上に向かって、三つ折りにします。最終的にA4~B4サイズ程度になるように調整しながら折り進めましょう。きつく折りすぎず、ふんわりと空気を抜きながら畳むのがコツです。
  • 最後に手のひら全体で軽く押さえ、着物全体の空気を抜きながら、畳んだことによって生じるかもしれない小さなシワを逃がします。これで、旅先で広げたときに美しい着姿を保てます。

コツ:折り目は直線に。曲がった折りは移動中にシワの起点になります。

4-3.  袖畳み(小さめスーツケースやリュック向け)

本だたみよりもさらにコンパクトになる畳み方で、限られたスペースに収納したいときに役立ちます。袖を先に処理することで、畳んだ後の形が安定します。

  1. 着物を裏向きに広げたら、まず左右の袖を先に内側へ折ることから始めます。袖が身頃にぴったりと沿うように丁寧に折りましょう。
  2. 次に、身頃を背中心で折り合わせ、細めの長方形になるように形を整えます。これにより、着物全体の幅がぐっとスリムになります。
  3. 裾から上に向かって、巻き込まず“折る”ことを徹底します。洋服のようにクルクルとロール状に巻いてしまうと、かえって深いシワの原因となるため、あくまで平らに折り重ねるようにしてください。
  4. 最終的なサイズをA4弱程度に仕上げると、容量20〜25L程度の小さめバッグやリュックにも無理なく収まります。持ち運びたいバッグのサイズに合わせて微調整しましょう。

4-4.  長襦袢の畳み方(半衿つき)

着物と重ねて着る長襦袢も、旅先でシワなく着るためには丁寧に畳むことが大切です。特に半衿は顔周りにくるため、美しい状態を保ちたいものです。

  • 半衿の山に折り目を付けないよう、半衿部分だけ薄紙(ご家庭にあるキッチンペーパーでも代用できます)を挟みます。これにより、半衿の形が崩れるのを防ぎ、パリッとした状態を保てます。
  • 襟はのどのV字が潰れないよう、無理に直線的に折らず、U字にふんわりと置くように畳みます。その後、着物と同じように「本だたみ」の要領で全体を畳み進めてください。襟元は特にシワになりやすい部分なので、優しく形を整えるのがポイントです。

4-5. 帯・小物のコンパクト保護

着物本体だけでなく、帯や小物も丁寧に扱うことで、旅先での着付けがスムーズになり、美しい着姿を保てます。

  • 名古屋帯:帯を筒状に巻いて収納する際、帯芯が硬くて折れやすい場合は、芯のないスカーフや薄手のフェイスタオルなどを帯の芯にして筒状に巻くと、シワにならず安定します。その後、通気性の良い不織布で包んでください。
  • 半幅帯:比較的シワになりにくい半幅帯は、二つに折ってからさらに三つ折りにし、直方体になるように畳むと、スーツケースの隙間にも収まりやすく、型崩れを防げます。
  • 帯枕:帯枕は形が崩れやすいため、帯の中にセットしたままにするのではなく、必ず帯から外してメッシュポーチなどに入れて、他の荷物とぶつからないように保護しましょう。
  • 帯板:帯板は硬いので、スーツケースの背面側に沿わせるように収納すると、着物のシワ対策にもなり、かつスーツケース内の仕切り代わりにもなって便利です。
  • 帯留・簪(かんざし):繊細な帯留や簪は、破損を防ぐためにもハードケース(メガネケースやペンケースなど、硬い素材のケースで代用可能)に入れ、さらにティッシュや柔らかい布でくるんで緩衝材として隙間を埋めましょう。

4-6. 包み・ケースの使い分け

旅の期間や移動手段に合わせて、適切な包み方やケースを選ぶことが、着物を良い状態で持ち運ぶための鍵です。

  • たとう紙:着物本来の保存方法であるたとう紙は、通気性に優れており、着物を湿気から守ります。ホテルに到着後、すぐにたとう紙から着物を取り出してハンガーに吊るす(一時的に)前提であれば、最も理想的な持ち運び方法です。
  • ガーメントバッグ:出張などでスーツを持ち運ぶ際に使うガーメントバッグは、着物を吊るした状態で収納できるため、シワになりにくいのが大きなメリットです。ただし、移動中も吊るして置ける環境が確保できる場合に有効です。雨の日には、必ずバッグの外側にレインカバーを装着して、濡れないように保護しましょう。
  • 風呂敷(100cm前後):風呂敷は、本だたみした着物(2枚程度)を平行に包むのに適しています。風呂敷でしっかりと包むことで、スーツケースの中で着物が動かないように固定でき、シワや型崩れのリスクを減らせます。
  • 不織布袋:軽くて通気性がある不織布袋は、着物を一時的にまとめておくのに便利です。ただし、ビニール製の完全密閉袋はNGです。結露が発生しやすく、それがシワやカビの原因となるため、通気性の良いものを選びましょう。

4-7. スーツケース実用パッキング(レイアウト例)

限られたスーツケースのスペースを最大限に活用し、着物をきれいに持ち運ぶためのパッキング術をご紹介します。

35–40L機内持込サイズ(コンパクトでもしっかり収納)

  • 底面(車輪側):スーツケースの底は比較的安定しているため、帯板や、カバーをつけた折りたたみ傘(水濡れ対策は必須)など、硬くて平らなものを配置します。これらが下敷きとなり、上の着物への衝撃を和らげます。
  • 中段:畳んだ着物(本だたみ)を一番下にし、その上に長襦袢、そして羽織の順で重ねていきます。こうすることで、“重いものを下”に配置する基本を守り、着物の重心を安定させ、シワを最小限に抑えます。
  • すき間:メインの衣類を配置した後の隙間には、帯(筒巻きにしたもの)を縦置きで入れます。また、草履はつま先に丸めたティッシュなどを詰めて鼻緒の形をキープしつつ、空いたスペースに配置しましょう。
  • 上段:小物ポーチ(腰ひも、伊達締め、帯揚げ、帯締め、足袋など着付け小物一式)や、下着・靴下など、比較的小さくて柔らかいものを配置します。これらが着物のクッション代わりにもなります。
  • フタ側ポケット:旅先でサッと取り出したい懐紙・袖クリップ・替えの半衿などは、スーツケースのフタ側のポケットに入れておくと便利です。

20–25Lリュック(最小限の荷物で身軽に)

  • 背面:リュックの背面は、重さが分散され安定しやすいため、帯板(曲げないように)を縦に沿わせるように入れます。
  • メイン:着物・襦袢(袖畳み)は、A4サイズのファイルボードや厚紙などで上下からサンドイッチするように挟んでから、リュックのメイン収納に入れます。これにより、リュックの動きによるシワを防ぎます。
  • 外ポケット:タオル・折り畳み傘など、濡れる可能性があるものや、使用頻度の高いものは、他の荷物と分離できるよう外ポケットに入れるのがおすすめです。

だめ絶対:圧縮袋で正絹をペタンコにすると、着物の繊維が折れて白スジ(白い線状のシワ)や永久的なシワの原因になります。絶対に避けましょう。

4-8.  機内・雨天の運びの注意

  • 機内:飛行機での移動では、正絹の着物は特に取り扱いに注意が必要です。座席上の上段棚に置くと、他の乗客の荷物との摩擦や、乱暴な荷物の出し入れによるシワ、さらには急な落下のリスクがあります。また、機内の温度変化も影響を与える可能性があります。そのため、畳んだ着物はできるだけ足元に置くのが最も安全な方法です。自分の視界に入る場所であれば、安心して旅を楽しめます。
  • 雨天:旅先で雨に降られた場合は、スーツケースやバッグの中で濡れたもの(傘やレインコートなど)と乾いた着物・小物を厳重に分けることが重要です。小さなビニール袋を複数用意し、濡れたものをそれぞれ個別に収納しましょう。もし着物が濡れてしまったら、決してこすらず、清潔なタオルで水分を優しく押さえるように拭き取ります。ホテルに到着後、すぐに着物を取り出し、風通しの良い場所で陰干しをして完全に乾かしてください

4-9.  リユースならではの“保護”の勘所

  • 古い胴裏(どううら)や八掛(はっかけ)は摩耗に弱い:リサイクル着物、リユース着物の中には、胴裏(着物の裏地)や八掛(裾の裏地)が古くなっているものがあります。これらの部分は、畳んだときに角になったり、他の荷物と擦れたりすることで、特に摩耗しやすい傾向があります。畳む際に、角に当たる部分へ薄手のティッシュを一枚挟むだけで、摩擦による生地の劣化を軽減できます。
  • 金銀箔・刺繍帯は面を外にして筒巻き:金銀箔や繊細な刺繍が施された帯は、その装飾部分が擦れると剥がれたり、糸が引っかけたりする可能性があります。これを防ぐためには、帯を筒状に巻く際に装飾面を外側にし、さらにその上から薄紙を一周巻いて保護しましょう。こうすることで、外からの圧力が直接装飾に加わるのを防ぎます。
  • 古い防虫剤(ナフタリン)臭の残る帯は別袋へ分離:昔の防虫剤であるナフタリンの匂いは非常に強く、一度付着すると他の布類にも移りやすい特性があります。もし、持ち運ぶ帯にナフタリン臭が残っている場合は、他の着物や小物とは完全に分離して、密閉できる別の袋に入れるようにしてください。これにより、大切な他の衣類に匂いが移るのを防ぎます。

4-10.  草履・足袋の運び

  • 草履:草履をパッキングする際は、左右のソール(裏側)を向かい合わせにして重ね、専用の巾着袋に入れるのがおすすめです。さらに、鼻緒の形を保つために、つま先部分に丸めたティッシュや柔らかい紙を詰めて保護しましょう。底にゴムが貼ってある草履は、雨の日でも滑りにくく、旅先での安心感が格段に増します。
  • 足袋:足袋は汚れやすいため、1日1足の着用を基本とし、さらに予備を1足持っていくと安心です。旅先でちょっとした汚れが付いてしまった場合のために、携帯用の拭き取りシートを足袋とセットでポーチに入れておくと便利です。
  • 下駄:下駄の「歯」(底の接地部分)は硬く、角張っているため、他の荷物に当たると傷つけたり、下駄自体が欠けてしまう可能性があります。これを防ぐために、下駄の歯の角に段ボールの切れ端や厚手の布などを当てて保護しておきましょう

4-11.  到着後のルーティン(3ステップ)

旅先に到着したら、着物を良い状態で保つために、この3つのステップを実践しましょう。

  • すぐに吊るす:スーツケースから着物を取り出したら、できるだけ早くハンガーに吊るしましょう。ホテルのクローゼットや、ドアフックなどを利用して、着物用のハンガー2本(身頃用と袖用)を使い、着物の形を整えながら吊るすのが理想的です。これにより、移動中に付いたシワが重力で伸びやすくなります。
  • 浴室スチーム:もし着物にシワが目立つ場合は、ホテルの浴室を活用しましょう。シャワーの湯気を充満させ、スチーム代わりにします。湯気が充満した浴室に、着物をハンガーに吊るして5分ほど置いておきます。その後、浴室の外の風通しの良い場所で、着物を完全に乾燥させます。湿気を含んだまま放置すると、カビの原因になるため、しっかりと乾燥させることが重要です。
  • 面で撫でる整え:シワが伸びたら、手のひら全体を使って、着物の表面を上から下へ優しく撫でて整えます。このとき、部分的に指でつまんだり、強くこすったりしないように注意してください。アイロンを直接当てるのはNGです。どうしてもシワが気になる場合は、必ず当て布をして、低温設定で優しくアイロンをかけるようにしましょう。

4-12.  旅先トラブルの応急処置

旅先で思わぬトラブルに遭遇しても、落ち着いて対処できるよう、応急処置の方法を知っておきましょう。

  • 食べこぼし(油性):食事中に油性のものをこぼしてしまったら、すぐに清潔なティッシュで汚れた部分を上から優しく押さえ、油分を吸い取らせます。決してこすらないでください。その後、ホテルにベビーパウダーがあれば、汚れた部分に軽く振りかけ、パウダーが油を吸い取ったら、優しく払い落とします。応急処置として、これ以上油分が繊維の奥に入り込むのを防ぐ効果があります。
  • 泥はね:泥が跳ねて着物についてしまった場合は、焦らず乾くのを待ちましょう。泥が乾いたら、やわらかいブラシ(洋服ブラシでも可)を使って、優しく泥を払い落とします。濡れたままこすったり、拭き取ろうとしたりすると、泥が繊維の奥に入り込み、かえってシミが広がる原因になります。
  • シワ:軽度のシワであれば、ハンガーに吊るして重力に任せるのが最も効果的です。特に正絹は湿気を吸うことでシワが伸びやすいため、浴室スチームの活用もおすすめです。どうしても取れない頑固なシワだけ、当て布をして低温で優しくアイロンをかけましょう。高温やスチームの当てすぎは生地を傷める原因になります。
  • ほつれ:着物の縫い目がほつれてしまった場合、旅先で針と糸を使って本格的に手縫いするのは難しいかもしれません。そんな時は、透明の「ほつれ止めボンド」を少量使って、一時的に仮止めするのがおすすめです。接着力が強すぎないものを選び、目立たないように最小限の量を使用し、帰宅後に専門店で修理してもらいましょう。

4-13.  ミニチェックリスト(持ち運び編)

最低限これだけ持っていけば、旅先での着物に関する心配を軽減できる、厳選された持ち物リストです。

  • 風呂敷(100cm)×1–2枚:着物や帯を包むのに便利。
  • 不織布袋×2枚:着物の一時的な収納や、濡れたものとの分離に。
  • 薄紙×数枚:帯の保護や、半衿に挟むなど多用途に。
  • シリカゲル小袋×2個:湿気対策として不織布の外側に忍ばせる。
  • ハードケース(帯留・簪用):繊細な小物の破損防止に。
  • 吸水タオル/ウェットティッシュ:汚れや濡れへの応急処置に。
  • 替え半衿/袖クリップ/懐紙:着姿の乱れや汚れ対策の必須アイテム。
  • 針・糸 or ほつれ止め:小さなトラブルへの備えに。
  • マスキングテープ(仮固定):着付けの微調整や、一時的な固定に何かと便利。

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