2025年05月17日
音羽屋、伝統と未来の継承―尾上菊五郎・菊之助襲名披露 観劇記

歌舞伎の名門、音羽屋の歴史が新たな章を刻んだ2025年5月。「團菊祭五月大歌舞伎」にて、八代目尾上菊五郎と六代目尾上菊之助の親子同時襲名が盛大に執り行われました。
300年の伝統を受け継ぎながら、未来へと力強く歩み出す音羽屋の新たな門出。本記事では、昼夜の部の観劇記を中心に、襲名披露口上の様子や舞台の感動、会場の祝祭ムードなどを詳細にレポートします。
次世代を担う若き才能の輝き、そして伝統と革新が織りなす歌舞伎の魅力を、あなたもぜひ体感してください。
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目次
2-2. 歌舞伎界の重鎮が揃った口上の様子、七代目の言葉など
3-1.『寿式三番叟』の華やかな幕開け
3-2. 圧巻の『勧進帳』、團十郎との共演
3-3. 『三人吉三巴白浪』の緊張感ある演技
3-4.『京鹿子娘道成寺』:親子での花子役、美と気迫に満ちた舞踊
4-1. 『義経腰越状 五斗三番叟』の印象
4-2. 披露された襲名口上の雰囲気
4-3. 『弁天娘女男白浪』親子競演の華
5-2. 観客や専門家の評価
5-3. 音羽屋の芸が確実に受け継がれていると感じた瞬間
6-1. 歌舞伎座前の人力車やフォトスポット
6-2. 松竹大谷図書館での特別展示の紹介
1. はじめに
2025年5月某日。筆者は歌舞伎座で開催された「團菊祭五月大歌舞伎」を、まるやま・京彩グループが株式会社歌舞伎座とコラボ企画した観劇プランに参加して、拝見してきました。
今回は、ただの歌舞伎公演ではありません。名門・音羽屋の大名跡「尾上菊五郎」と「尾上菊之助」を、それぞれ菊之助さんとその息子・丑之助くんが継ぐ、親子同時の襲名披露という歴史的な舞台。その瞬間に立ち会えること自体が、大変貴重な経験でした。
※音羽屋の歴史などについてはこちらのブログ記事に詳しく書いていますので、ご覧ください。
【完全解説】八代目尾上菊五郎襲名へ!歴史・意味・影響を徹底分析
夜の公演では、襲名披露に欠かせない口上が設けられ、七代目尾上菊五郎さんをはじめ、坂東玉三郎さん、市川團十郎さん、中村梅玉さん、尾上松緑さんといった歌舞伎界の重鎮たちがずらりと並び、襲名への祝意と激励の言葉を述べる場面は、まさに圧巻。
特に七代目が口にした「音羽屋300年の歴史の中で、菊五郎が2人舞台に立つのは初めて」という言葉に、会場中から温かな拍手に包まれた瞬間は、やはり感動ものです。
この観劇記では、襲名披露口上を含む夜の演目を中心に、舞台の感動や客席の空気感、そして何より、新たな世代へと受け継がれていく音羽屋の芸の力について、詳しくご紹介していきたいと思います。

2. 歴史的な襲名披露口上―音羽屋300年の新たな瞬間
2−1.八代目尾上菊五郎・六代目尾上菊之助の同時襲名の意義
襲名披露において最も象徴的で、観客の心を強く揺さぶるのが「口上(こうじょう)」です。これは、襲名を迎えた俳優が、自身の思いや決意を述べるとともに、同席する歌舞伎界の重鎮たちがその門出を祝福する、儀式的かつ非常に格式高い場面です。
そのように格式高いものとなっているのは、今回の同時襲名に特別な意味があるからなんです。
それは「伝統の継承」「新しい時代への挑戦」そして「家族の絆による未来への橋渡し」という三つの大きな意義を持っているからです。歌舞伎の歴史と未来をつなぐ、本当に特別で意味深い出来事だと言えるでしょう。
こういった歴史に残る歴史的な歌舞伎の瞬間に居合わせたことに、何だか一生に一度あるかないかの幸運を感じてしまいます。
2-2. 歌舞伎界の重鎮が揃った口上の様子、七代目の言葉など
夜の部では、この襲名披露口上が上演されました。幕が上がると、舞台には黒紋付き姿の名優たちが整然と並び、その中心に、新・八代目尾上菊五郎(前・菊之助丈)と、わずか11歳にして新・六代目尾上菊之助を継いだ丑之助くんの姿がありました。
舞台上には、七代目尾上菊五郎さん、坂東玉三郎さん、市川團十郎さん、中村梅玉さんら、日本を代表する役者陣が勢揃い。その威厳と品格に、観客席は一瞬で厳粛な空気に包まれます。
七代目菊五郎さんの口から発せられた、
「音羽屋三百年の歴史の中で、舞台に菊五郎が二人並ぶのは初めてです」
という言葉には、思わず会場中からどよめきと笑いが起こり、続く大きな拍手がその場を祝福の空気で満たしました。
一方、八代目を継いだ新・菊五郎さんは、凛とした表情で丁寧に挨拶を述べ、「音羽屋の芸を次の世代に繋ぐ責任」を力強く語りました。そこには、父として、また芸を継ぐ者としての覚悟がにじんでおり、役者人生の新たな幕開けにふさわしい、堂々たる姿でした。
そして、舞台上で最も注目を集めたのが、六代目菊之助となった丑之助くんです。もちろん彼は七代目尾上菊五郎の孫であり、名優二代目中村吉右衛門の孫でもあるという、紛れもないサラブレッドと言えます。
2-3. 観客の雰囲気
まだ11歳とは思えない落ち着いた佇まいと、はっきりとした口調での挨拶に、客席からは惜しみない拍手が送られました。彼の姿には、「芸の血脈」が確かに受け継がれていること、そしてこの先の歌舞伎界に対する希望が自然と重なって見えます。
襲名披露口上は、単なる形式的な儀式ではありません。そこには、役者自身の人生観、家の芸への誇り、師弟関係、そして芸能という文化を未来へつなぐ強い意思が凝縮されています。音羽屋親子が並び立つその姿は、300年という長い歴史の先に、新たな光を感じさせる瞬間でした。
3. 昼の部の見どころと感想

夜の部の口上が話題ですが、今回の「團菊祭五月大歌舞伎」は昼の部も極めて見応えのある演目が揃っており、改めて歌舞伎の醍醐味、魅力を味わうことができました。
特に、親子襲名という節目にふさわしい、格式と華やかさを備えた舞踊や古典が並び、芸の継承を体感させる構成になっていました。
3-1.『寿式三番叟』――華やかなる幕開け
昼の部の幕開けを飾ったのは、祝儀性の高い舞踊『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』。これは「翁(おきな)」と「三番叟(さんばそう)」という二つの役が登場し、五穀豊穣や天下泰平を祈念する古典舞踊です。
尾上松也、中村歌昇、中村萬太郎、尾上右近、中村種之助の若手5人が、広い舞台を縦横に力強く踏み鳴らしながら舞い踊る姿に、一気に心が高ぶるのを感じました。
この演目自体が、まるで襲名披露の幕開けを祝う儀式になっていると感じられました。世代を超えて芸がつながっていくことへの祈りや祝意がこめられており、観客にとっては「これから始まる襲名披露公演の序章」として相応しい荘厳で清々しい空気が漂っていました。
3-2.『勧進帳』――重厚な古典に宿る迫力
次に登場したのは、歌舞伎十八番の代表作『勧進帳』。武蔵坊弁慶と源義経の絆、そして弁慶の機転と忠義を描いた緊張感あふれる一幕です。
今回は弁慶を市川團十郎さんが演じ、その堂々たる佇まいと迫力ある演技に、客席は息を呑みました。声の張り、身体のキレ、そして目線の強さ——どれをとっても一流で、「古典の重みと今を生きる芸」が見事に融合した舞台でした。
相対する富樫役の八代目尾上菊五郎さんも台詞回しが朗々として、安心して観ていられました。
勧進帳の最終場面で、團十郎演じる弁慶が華麗に花道を退場する瞬間、驚いたことに花道近くから現れた後見人が市川右團次さんだったのです。他のお客さんは気づいたでしょうか?もしかしたら他の場面でも後見を担当されていたのかもしれません。この思いがけない、そして豪華な発見に、とても嬉しくなりました。
3-3.『三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場』―盗賊たちの奇縁と夜鷹の儚さ
この演目は、いずれも「吉三(きちざ)」と名乗る三人の盗賊――お嬢吉三(尾上時蔵さん)、お坊吉三(坂東彦三郎さん)、和尚吉三(中村錦之助さん)が、因縁によって結びつき、悪を重ねながらも義を貫くという人間ドラマです。
幕開きの名台詞「こいつぁ春から縁起がいいわえ」は、歌舞伎をあまり観ない人にも知られるほど有名で、このシーンの持つインパクトは大きいですね。
そこにからむのが、夜鷹おとせ役の中村莟玉(かんぎょく)さん。彼の演じるおとせは、可愛らしく、そしてお上品な印象があり、夜鷹という役の持つ泥臭さや生活の重さがやや薄れて感じられたのは惜しいところ。とはいえ、その楚々とした佇まいは観客の目を惹きます。
しかしながら、物語の展開は容赦なく、莟玉さん演じるおとせは早々にお嬢吉三に突き落とされて大川に沈められてしまいます。その儚さと残酷さが、逆にこの物語の不条理さと江戸の暗部を強調し、舞台全体に陰影を与えていたともいえるようです。
3-4.『京鹿子娘道成寺』―親子共演が魅せた究極の美

昼の部の掉尾を飾るのは、歌舞伎舞踊の最高峰のひとつ『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』。白拍子・花子が、恋の情念にとらわれながらも美しく舞うこの作品は、まさに「型の芸術」とも言うべき名作です。
過去には坂東玉三郎さんと八代目尾上菊五郎さんが菊之助の時に、女方舞踊の最高峰「娘道成寺」の歴史に新たな1ページを加えた名舞台と言われた「京鹿子娘二人道成寺」で共演した演目。
残念ながら私はお二人の舞台を鑑賞していませんが、数年前にシネマ歌舞伎の「京鹿子娘二人道成寺」でその圧倒的な美しさに感動したのを覚えています。
今回この作品においては、八代目尾上菊五郎さん(前・菊之助)と六代目尾上菊之助くん(11歳)が親子で同じ役(花子)を演じるという、極めて珍しく、かつ感動的な舞台構成が取られました。
まだ幼さが残ってはいますが、菊之助くんが見せた凜として繊細な表現と、父である菊五郎丈の重厚で気品ある舞に、客席は言葉を失うような集中の空気に包まれました。二人の舞踊が交互に展開される中で、時代と芸が交差し、継がれていく瞬間を、誰もが目の当たりにして感動していたのが客席でもよく分かりました。
そして舞台に彩りを添えたのは、坂東玉三郎さんの繊細な表現力。今後その演技に触れる機会が徐々に少なくなっていくであろう玉三郎さんの優美な姿を、心の奥深くに大切に留めておきました。
この演目でひとつ面白かったのが道成寺の修行僧(所化)たちの軽妙な踊りや、時事ネタや言葉遊びを含めた珍妙な台詞。この愉快な役回りを、すでに中堅の役者さんたちが楽しそうに演じています。
こういったものは歌舞伎を観る楽しみの一つだと思います。
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昼の部は、幕開けから終幕まで、どの演目も襲名披露という特別な場にふさわしい重みと華やかさを備えていました。そしてそのどれもが、「継承」と「変化」という二つのテーマを舞台上で見事に体現していたと言えると思います。
4. 夜の部の魅力と感動
夜の部は、親子襲名披露の口上が行われる特別な回ということもあり、昼の部とはまた違った緊張感と祝祭感が漂っていました。観客席は開演前からざわつきつつも、どこか厳かな空気に包まれており、歴史的瞬間に立ち会うことへの期待感が、静かに、しかし確かに感じられました。
4-1.『義経腰越状 五斗三番叟』の印象
夜の部の最初を飾ったのは、『義経腰越状』と『五斗三番叟』という二つの演目を組み合わせた構成。この演目は一言で言えば、品格と重みのある幕開けといっていいと思います。
『義経腰越状』は、源義経が兄・頼朝に無実を訴える悲劇的な場面が描かれる義太夫狂言。歴史の裏にある人間の葛藤と誠意がじんわりと胸に沁みる一幕でした。衣裳や所作のひとつひとつに品格があり、襲名披露という大舞台の幕開けにふさわしい緊張感と静けさが漂っていました。
続く『五斗三番叟』は、道化的なキャラクター五斗兵衛が三番叟の所作を真似するという、祝祭性とユーモアの入り混じる舞踊。襲名披露においては、この「三番叟」という型が繰り返し登場し、芸の神聖性と祝賀の象徴としての役割を果たしているのが印象的。五斗兵衛盛次を尾上松緑さんが演じます。
4-2. 披露された襲名口上の雰囲気
夜の部の最大の見どころといえば、やはり襲名披露口上です。
舞台には、七代目尾上菊五郎さんをはじめ、坂東玉三郎さん、市川團十郎さん、中村梅玉さんら、歌舞伎界を代表する顔ぶれがずらりと並び、異例の豪華さに息をのまずにはいられませんでした。
壇上中央には、新たに八代目尾上菊五郎を継いだ菊之助さんと、六代目尾上菊之助を襲名した丑之助くんが並びます。父・祖父・息子が一堂に会すこの光景は、三代が同時に舞台に立つという、音羽屋300年の歴史でもかつてなかった奇跡的な瞬間です。
特に印象的だったのが、七代目菊五郎さんのユーモアを交えた口上。
「音羽屋三百年の歴史の中で、舞台に菊五郎が二人並ぶのは初めてでございます」
という一言に、客席からは温かな笑いと盛大な拍手が沸き起こりました。
さらに、八代目となった菊之助丈の言葉には、父であり一人の役者としての覚悟がにじみ出ており、観ている側も自然と背筋が伸びるような思いでした。
そして、11歳の新・菊之助くんの堂々とした挨拶には、誰もが目を細めながらも、その芯の強さに舌を巻いていたように思います。あの瞬間、会場の拍手はただの祝福ではなく、未来への期待を込めた音にも聞こえました。
4-3. 『弁天娘女男白浪』親子競演の華
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夜の部の掉尾を飾るのは、音羽屋にとってゆかり深い名作『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』。女に姿を変えて悪事を働く「弁天小僧菊之助」が主役を務めるこの演目は、まさに菊之助襲名にふさわしい一作です。
この演目では、八代目菊五郎(前・菊之助)が「浜松屋見世先」「極楽寺屋根立腹」の場を、そして六代目菊之助くんが「稲瀬川勢揃い」の場で弁天小僧を演じるという、親子での“分担共演”が実現しました。
特に11歳の菊之助くんが弁天小僧を演じる姿には、観客全員が釘付け。小柄な体に似合わぬ堂々としたセリフ回し、キレのある立ち回り、そして何より、品の良さの中に宿る凛々しさが強く印象に残りました。
また、忠信利平役を板東亀三郎くん、赤星十三郎役を中村梅枝くん、南郷力丸役を菊之助くんの従兄弟で寺島しのぶさんの息子である尾上眞秀くん、そして日本駄右衛門を團十郎の子息である市川新之助くんがそれぞれ演じて客席を沸かせました。
幼いながらも、すでに「役者」としての格がにじみ出ているそれぞれのその姿は、観客の胸を打つものであり、「各家の芸は確実に次世代に受け継がれている」と実感させられる瞬間でした。
一方、八代目菊五郎となった父が見せる緩急の利いた演技、色気と余裕を感じさせる場面運びも見事で、まさに「名跡を継ぐ重み」を体現する存在感がありました。
夜の部は、昼に比べて格調高く、また襲名の意義をより強く感じさせる構成になっていました。舞台上に並ぶ役者たちの姿そのものが、歌舞伎という芸能の歴史であり未来。
とくに父子が交互に主役を演じる演出は、単なる記念公演の枠を超え、伝統の核心に触れる体験となりました。
5. 六代目菊之助――11歳の舞台に宿る将来性
歌舞伎界において、名跡の襲名は単なる「名前の継承」にとどまりません。それは同時に、家の芸を受け継ぎ、体現していく責任を担うという、大きな覚悟と挑戦でもあります。2025年5月、11歳という若さで「尾上菊之助」の名を襲った六代目は、その責任をまっすぐに受け止め、堂々とその第一歩を踏み出しました。
5-1. セリフ、所作の完成度
襲名披露壇上で見せた堂々たる六代目菊之助くんの口上の姿は、観客の誰もが心に刻んだことと思います。
緊張の面持ちを見せることなく、ゆっくりと、しかしはっきりとした口調で挨拶を述べる姿は、年齢をはるかに超えた落ち着きと風格を感じさせるものでした。まだ11歳とはとても思えない、柔らかさと芯の強さが同居した立ち姿に、「この子は本当に舞台に生きる者なのだ」と、自然に思わせる何かがありました。
「栴檀は双葉より芳し」という言葉がふと心に浮かびました。
観客からの「音羽屋!」「六代目!」という掛け声も、祝福とともに期待が込められた温かなもの。それに応えるかのように、菊之助くんは一礼しながら、最後まで集中を切らすことなく壇上に立ち続けていました。
舞台上の存在感と役者としての資質
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特に注目を集めたのが、『弁天娘女男白浪』での弁天小僧役です。菊之助の名を冠するこの大役に挑んだ六代目の演技には、単なる“親の七光り”とは一線を画す、自らの実力と芸への真摯な向き合いが感じられました。
セリフを言い切る力、目線の配り方、そして動作のキレ。それら一つ一つに、“音羽屋”という家が長年かけて培ってきた芸の輪郭が確かに刻まれており、それを11歳の少年が自然に体現しているということに驚きを禁じ得ませんでした。
また、『京鹿子娘道成寺』での舞踊でも、その若さと柔軟性を活かした美しい所作が印象的でした。親である八代目菊五郎丈と並びながらも、しっかりと自分の色を持っていることが伝わってくる舞台で、「この子は自分の芸を確立する素質がある」と感じさせるに十分な仕上がりでした。
余談ではありますが、歌舞伎座の正面口の右側に音羽屋さんのご贔屓筋向けのカウンターがしつらえられていて、八代目菊五郎さんの妻、菊之助君のご母堂である瓔子(ようこ)さんが控えていらっしゃいました。彼女は故二代目中村吉右衛門さんの四女です。
梨園の妻として、母として、目立ちすぎず、地味すぎず、とても大変な役割を果たしていらっしゃるんだろうなと思っておりました。余計なお世話で申し訳ございません…
5-2. 観客や専門家の評価
多くの劇評や専門家のコメントでも、六代目の登場は高く評価されています。たとえば国立劇場関係者からは、
「あの年齢であれだけ舞台に集中できる子は稀。音羽屋の血を実感した」
といった声があがり、実際に六代目はすでに「国立劇場特別賞」や「奨励賞」などを受賞しており、将来を担う存在として公的にも認められつつあります。
また、一般観客のSNSやブログなどでも、
- 「菊之助くん、目がとにかくいい」
- 「あの台詞回しには度胸を感じた」
- 「おっとりした雰囲気の中に、役者としての芯が見える」
など、好意的な感想が多く見受けられました。
5-3. 音羽屋の芸が確実に受け継がれていると感じた瞬間
六代目尾上菊之助は、まだ始まったばかりの役者人生の中で、すでに“何かを持っている”ことをはっきりと示しました。その「何か」とは、おそらく音羽屋の芸を未来へと繋ぐ「才」と「志」です。これから彼がどのような成長を遂げていくのか、その過程を見守ること自体が、歌舞伎を観る喜びの一つとなっていくことと思います。
6. 会場の祝祭ムードと周辺の楽しみ

歌舞伎座に足を踏み入れた瞬間から、今回の襲名披露が「特別な公演」であることは、ひしひしと伝わってきました。華やかなのにどこか厳粛で、普段の公演とは違う“空気の厚み”を感じさせる。それは、舞台上だけでなく、劇場の外にも広がる祝祭ムードとして演出されていました。
6-1. 歌舞伎座前の人力車やフォトスポット
歌舞伎座前の特別ラッピング人力車

劇場前には、襲名披露を記念して特別ラッピングが施された人力車が登場。八代目菊五郎、六代目菊之助、それぞれの襲名を祝うデザインが描かれ、観劇前後に記念撮影をする人々で賑わっていました。
人力車はただのフォトスポットではありません。江戸の風情を感じさせるその姿が、歌舞伎座の雰囲気をより引き締め、まるで明治・大正の銀座にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。
歌舞伎座の外観はインバウンド訪れた外国人の撮影スポット。芝居がはけて劇場方出てきた観客に交じって、人力車や立て看板を背景にさつえいする外国人観光客の姿も多く、カメラを手に嬉しそうにに写真を撮る様子が印象的でした。
ロビーの装飾と限定グッズ
劇場ロビーには、八代目・六代目の襲名披露を記念した特別展示パネルや、襲名にちなんだ装花が並び、観劇前から期待が高まる演出がなされています。また、今回しか購入できない限定の襲名記念グッズも販売されており、プログラム冊子や手ぬぐい、扇子、根付(ねつけ)など、実用的で品のあるアイテムが揃っていました。
特に人気を集めていたのが、弁天小僧や娘道成寺の衣裳をモチーフにした手ぬぐい。伝統的な柄と現代的な色使いのバランスが良く、お土産にも最適でした。
6-2. 松竹大谷図書館での特別展示の紹介
観劇の前後に時間がある方には、ぜひ訪れてほしいのが松竹大谷図書館で開催されている**「歴代菊五郎・菊之助の襲名展」**です。
この展示では、代々の菊五郎・菊之助が実際に使用した衣裳の一部や台本、舞台写真、襲名披露口上の記録などが紹介されており、名跡の重みと継承の歴史を深く感じることができます。七代目菊五郎の若き日の写真と、今回八代目となった菊之助丈の襲名ポスターが並んで展示されていたのが印象的で、まさに「時間を超えた芸の系譜」が可視化されている空間でした。
展示内容は歌舞伎初心者にもわかりやすく工夫されており、解説文や年表も丁寧に整えられているため、親子連れや観光客も楽しめる内容となっています。
6-3. 観客の装いと雰囲気
襲名披露ということもあり、この日の観客席は和装率が非常に高く、まさに“晴れの日”の装い。
「特別な日には、特別な装いで歌舞伎を観に行く」という、かつての文化がいまなお息づいていることを感じさせる光景で、観客を含めてまるで一つの舞台装置のようになるのが歌舞伎の醍醐味です。
このように、劇場の中も外も、すべてが「襲名披露公演」という一大文化行事を祝う舞台として設計されていました。観劇そのものの感動に加え、空間全体が物語ってくれる芸能の重みと奥深さ。まさに、「歌舞伎を観る」という行為そのものが、五感すべてを使った豊かな体験でした。

7. まとめ―伝統の継承と未来への希望(+6月公演の見どころと期待)
2025年5月、歌舞伎座で行われた團菊祭五月大歌舞伎。この公演は、単なる舞台公演ではなく、「八代目尾上菊五郎」と「六代目尾上菊之助」という名跡の親子同時襲名という、歌舞伎史上に残る歴史的瞬間を描いた舞台でした。
こんな歴史に残る歴史的な歌舞伎の瞬間に居合わせたことに、何だか一生に一度あるかないかの幸運を感じたのは私ひとりではないでしょう。。
伝統と格式を重んじる舞台構成
昼夜の部を通して、『寿式三番叟』『勧進帳』『京鹿子娘道成寺』『弁天娘女男白浪』など、芸の重みと華やかさを兼ね備えた演目が続き、観る側にも自然と背筋が伸びるような体験となりました。父子共演、そして口上での三世代の並び立ちは、単なる記念公演を超えた「芸の儀式」と言えるでしょう。
六代目菊之助――未来を背負う若き力
11歳で大名跡を継いだ六代目菊之助の舞台姿には、観客も専門家も一様に驚き、そして感動しました。その確かな台詞回し、所作、表情からは、幼さ以上に「役者」としての才覚と責任感が強く伝わってきました。
今後の活躍が非常に楽しみであり、彼の成長は、歌舞伎の未来そのものを映す鏡として多くの人の目に留まることでしょう。
観客を巻き込む祝祭空間
劇場の外にも広がる祝祭ムード――特別ラッピングの人力車、記念装飾、松竹大谷図書館の襲名展示など、文化としての歌舞伎を体感できる仕掛けが随所に用意されていたことも、今回の襲名披露を特別なものにしていました。
八代目尾上菊之助襲名披露を兼ねた團菊祭五月大歌舞伎は5月27日が千穐楽です。
6月公演(六月大歌舞伎)の見どころと期待
5月に続き、六月大歌舞伎でも襲名披露は続行され、演目・出演者ともに非常に豪華な顔ぶれがそろっています。
6月は、より一層“芝居の骨太さ”が際立つ演目が多く、芸の深化に期待が高まります。
昼の部
『元禄花見踊』
この作品は、元禄時代の平和で爛熟した文化を背景に、満開の桜の下で繰り広げられる賑やかな花見の様子を描いています。舞台には、きらびやかに着飾った若衆たちや、美男美女のカップルである名古屋山三と出雲阿国が登場し、花を愛でながら陽気に踊り、喜び合う様子が表現されます。
出雲阿国を尾上右近さん、名古屋三山を中村隼人さんが演じます。
『菅原伝授手習鑑 車引・寺子屋』
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「菅原伝授手習鑑」は歌舞伎の三大名作の一つとして知られています。この作品は1746年に初演された人形浄瑠璃(文楽)作品で、後に歌舞伎に移植されました。菅原道真の物語を題材にしており、「寺子屋」「車引」の場面は特に有名です。
- 「車引」では新・六代目菊之助が梅王丸役に初挑戦。
荒事(あらごと)の要素が強く、セリフも所作も力強さが求められる大役。ここでの彼の演技は、「役者としての幅」を試される機会となります。 - 「寺子屋」では子どもと大人の心情が交錯する名場面が描かれ、観客の涙を誘う演出が期待されます。
『お祭り』
江戸の祭りを題材に、鳶頭や芸者たちが粋に踊る舞踊。明るく爽やかな雰囲気で、観客も一緒に楽しめる祝祭感溢れる一幕です。
この作品では、格好いい鳶頭(とびがしら)役として片岡仁左衛門さんが登場し、観客の目を引くことでしょう。また、芸者役の片岡孝太郎さんとの親子共演もわくわくしますね。
また、この演目では大向こう(観客)が「待ってました!」と声をかけると、鳶頭が「待っていたとはありがてえ!」と返すのが有名です。仁左衛門さんの台詞回しも楽しみですね。
夜の部
『暫(しばらく)』
歌舞伎十八番の一つで、團十郎さんが主役を演じる圧巻の大作。勇壮な荒事の真髄が見られる貴重な機会。
八代目菊五郎も出演し、重鎮と若手がぶつかる舞台として、見応え十分のはずです。
襲名披露口上(夜の部)
6月も引き続き口上が行われ、片岡仁左衛門さんや尾上松緑さんなど新たな顔ぶれが加わる予定。襲名の意義がさらに多角的に語られる瞬間に期待が高まります。
『連獅子』
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6月最大の話題が、この『連獅子』での親子共演。
- 親獅子の精を八代目菊五郎が、
- 子獅子の精を六代目菊之助が演じる、まさに襲名披露にふさわしい神聖な舞踊です。
獅子の毛を豪快に振り回す「毛振り(けぶり)」の場面は、観客から自然と拍手が起こる圧巻の場面。若き菊之助くんが、この難所をどう乗り越えるかに注目が集まります。
『芝浜革財布』
古今亭志ん朝、立川談志などが得意とした落語の人情噺、「芝浜」をもとにした芝居です。
襲名披露公演の締めくくりとして、笑いと涙、そして余韻を残すエピローグ的な作品です。役者たちの“素”に近い演技も楽しめる、温かみある一幕になるはずです。
主人公の魚屋政五郎を尾上松緑さん、女房おたつを中村萬壽さんが演じます。

おわりに
5月から6月にかけて続く襲名披露は、単なる一公演ではなく、「伝統を次世代へ引き継ぐ文化的イベント」です。
この2ヶ月間を通して、舞台上には歌舞伎の過去・現在・未来が凝縮され、我々観客もまたその“証人”となります。
2025年という年が、音羽屋にとっても、そして歌舞伎界全体にとっても新たな節目となることは間違いありません。
六月大歌舞伎、そしてその先へと続く菊之助くんの成長を、心から楽しみにしたいと思います。
京都南座「吉例顔見世興行」2025年12月公演ガイド
2025年12月1日から25日まで京都・南座で開催される今年最大の話題公演です。八代目尾上菊五郎と六代目尾上菊之助の親子同時襲名という歴史的瞬間を祝う、松竹創業130周年記念の特別興行となっています。
昼の部(10:30開演)の見どころ 舞踊中心の構成で、新・菊五郎による「鷺娘」は衣裳替えと雪の情景が美しい大曲です。女方としての表現力が存分に発揮される場面で、襲名披露にふさわしい華やかさがあります。新・菊之助の「玉兎」は若々しい踊りが魅力の演目です。
夜の部(16:30開演)の見どころ 物語性の強い古典芝居が中心で、「寿曽我対面」「弁天娘女男白浪」といった代表的な演目を通じて、音羽屋の伝統芸が堪能できます。特に「弁天娘」は粋な江戸前の魅力が光る一作です。
両部とも裃姿の俳優たちが並ぶ華やかな「襲名披露口上」があり、お祝いムード満点。南座名物の「まねき」や連獅子をモチーフにした祝幕など、視覚的な楽しみも豊富です。
初心者の方は、舞踊をじっくり味わいたいなら昼の部、ストーリーを楽しみたいなら夜の部がおすすめ。松竹公式サイトやイープラスで部ごとにチケット購入できます。
※チケットの残席状況については、各プレイガイドで最新情報をご確認ください。
歌舞伎座・大阪松竹座での襲名披露をご覧になった方へ
歌舞伎座、大阪松竹座で七代目菊五郎の襲名披露をご覧になった方なら、今回の京都南座公演はまた違った感慨があるはずです。当時”菊之助”として父を支えた現・八代目が、今度は自らが菊五郎を名乗り、息子の菊之助襲名を見守る立場に。16年前に南座のまねきに並んだ親子の名前が、今回は立場を入れ替えて掲出されるという歴史の継承が目に見える形で示されています。
歌舞伎座の襲名披露では東京ならではの華やかさがありましたが、京都・南座は初代菊五郎生誕の地という特別な意味を持ちます。八坂神社での奉納舞、清水寺・音羽の滝をモチーフにした舞台美術など、京都ゆかりの音羽屋としての物語性が色濃く反映されているのが今回の大きな特徴です。
東京で襲名の華やぎを体験された方こそ、ぜひ京都での”継承の物語”を実際にご覧になってはいかがでしょうか。

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